健康まちづくりEXPO2024
人生100年時代を見据えたまちづくりに向けて、
健康寿命の延伸に貢献する技術・製品・サービスが集結します。
近藤克則・千葉大学予防医学センター教授(「健康まちづくりEXPO」実行委員長)
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健康まちづくりEXPO 近藤委員長インタビュー
【2023年7月開催に向けて】

2023. 06. 19

健康はまちづくりからという理念の下、「健康まちづくり」の取り組みが各地で始まっている。この理念を提唱して、国や自治体の政策づくりに関わっている近藤克則・千葉大学予防医学センター教授(「健康まちづくりEXPO」実行委員長)に目指すことや、現状と課題を聞いた。

――「健康まちづくり」が目指すものは何でしょうか。そしてなぜ、いま必要とされるのでしょうか。

千葉大学予防医学センターやヤマハ発動機などによる「移動と健康」の実証実験

従来は「健康な人づくり」に力が注がれてきましたが、思ったほど簡単ではないと分かってきました。具体的に言えば、国の健康政策である「健康日本21」(第1次)では、健康増進のために2000年から10年間で国民ひとり一人の歩数を1000歩増やす目標を掲げキャンペーンや健康教育を通じて啓発しました。ところが、歩数は逆に減ってしまった。「えっ、なぜ?」となった。同じような現象が世界各地でみられ、健康教育による健康な人づくりは簡単ではないということが次第に共通認識になりました。

ほぼ同じ時期に、公園や緑地、歩道、学校などを含めた環境が健康のために重要であることを示す研究が次々と報告されました。公園の近くに暮らしている、歩道が整備されている、さらに治安がいいまちに暮らしている人たちで歩数や身体活動が多いなど100編を超える報告がされています。日本でも同様に、小学校のそばに住んでいる女性にはうつ症状が少ない、歩道が広い街に暮らす人は認知症の発症リスクが半減するという研究報告があります。人は知識を得れば生活習慣を変えて健康のために努力するという考え方ではうまくいかない一方で、「環境」づくりによって行動を変えて健康づくりをする「戦略」がありそうだと考えられるようになったのです。

――個人の生活習慣への着目から、まちづくりに視点を移すのは大きな変化ですが広がりつつあるのでしょうか。

考え方としては90年代からありました。例えば、喫煙者にタバコの害を説いて禁煙させるより、全館禁煙にするほうが効果的であるとか。有効性を裏付けるエビデンスが国内外でたまってきて、国の政策に取り入れられる段階に来ています。WHO(世界保健機関)は健康につながる社会的、経済的、文化的な環境づくりを進める「ゼロ次予防」を掲げていますし、日本でも2024年度にスタートする「健康日本21(第3次)」に「自然に健康になれる環境づくり」の必要性が盛り込まれました。

自治体や企業も、知れば「確かにそうだよね」と理解してくれる。奈良県生駒市はモデル事業として、地域の自治会周辺などに資源ごみ収集ステーションとコミュニティカフェを併設して、ごみ出しのついでに交流を促す「こみすて」をつくってみました。追跡したところ、利用者で要介護リスクが低下したことが明らかになりました。また、千葉県松戸市では産官学民が連携して高齢者に社会参加を促して介護予防を目指す取り組み、京都府精華町でもICT(情報通信技術)を活用した介護予防・健康増進プロジェクトなどが始まっています。現場で具体的な取り組みが重ねられています。

――まちづくりそのものを考え直すというのは大変大きな取り組みです。これから推進していくうえでの課題は何でしょうか。

奈良県生駒市でのモデル事業「こみすて」

いくつもの省庁にまたがるプロジェクトですから、縦割り行政を克服する必要がある。ただ、縦割りを乗り越えようという機運もすでにあります。内閣府が旗を振っているPFS(Pay for Success:成果連動型民間委託契約方式)は、国や自治体が事業を民間に委託する際に、目標値を上回る成果を上げた企業・団体へより多くのお金が支払われる仕組みです。その重点分野の一つが「健康・介護」で、モデル事業が国交省、経産省、厚労省などで実施されています。自社の商品、サービスが健康に寄与すると自信がある企業・団体が参加し成果が確認されることで、省庁の枠を越境して動き出すのではないかと期待しています。

個人情報の問題もあります。「健康まちづくり」の効果を検証していくためには、利用群と利用していない対照群の追跡データを比較しないと、健康が維持されたのか、改善したのか、悪化したのか分からない。どんな街に暮らせば健康になるのか知りたいが追跡されたくないという市民ばかりだと、どんな街が健康に寄与するのか解明できない。個人情報を保護しつつ、追跡してデータベースをつくって分析できる仕組みを社会としてつくっていくことが必要になります。

ビルの建て替えなどは数十年に一度ですから、完全にエビデンスの地固めをしてから「健康まちづくり」をスタートさせるのではチャンスを逃すことになる。「緑がある場所は気持ちいいよね」などで合意できればスタートして、その後追跡して効果を評価し、もし「副作用」があれば軌道修正していく。そういう試行錯誤も織り込んで進めていく仕組みがとても大事ではないでしょうか。

――7月6日、7日にグランフロント大阪(大阪市北区)で「健康まちづくりEXPO」が開催されます。実行委員長としてその役割をどうお考えになりますか。

商品・サービスを開発する企業、市民の健康・医療情報を持っている行政、そして研究者、協力してくれる市民の「産官学民」が連携して初めて「健康まちづくり」が加速します。「産官学民」が実際に集う場がいままでありませんでしたが、「健康日本21(第3次)」に「自然に健康になる環境づくり」が掲げられた年に健康まちづくりEXPOが初めてリアルで開催されるのは大変意義深いと思います。国や自治体関係者、不動産や情報通信をはじめとする多分野の企業などのいろんな立場の人たちが「そろそろ必要だよね」と思い始め、それが共鳴して開かれるのだと思います。ぜひ、「産官学民」の方々にたくさん集っていただき、「健康まちづくり」を見て、聞いて、意見を交わして、日本中に広がってほしいと思っています。

(聞き手・阿部毅)

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